SUEMITSU & THE SUEMITH コメント :

快速に速く、歌うように ―"のだめカンタービレ"に捧ぐ―

Cantabile ― 歌うように。楽譜の左上に記されたこの曲想表記を僕はこれまで幾度も目にし、そして"歌うように"奏する為にはどうすれば良いのかをいつも考えていた。結局、音大在学中にその答えが出る事はなく、何となく「こういう事かな」と感じたのはそれから随分経ってからの事。多くの経験を積まなければ決して出ることのない"答え"であった。

追求すればする程分からない事だらけの学生時代―それでもピアノを弾く事が楽しくて仕方なかった頃。金髪頭にモッズコート、生意気にも与えられた退屈な曲には手を付けず.....反面、自分が夢中になれる曲を貪欲に探し、例え十年早いと楽譜を投げられてもその曲を弾きたい一心で練習し、演奏会に臨んだ。バイト以外の時間の全てを練習に注ぐ。生活の全てがピアノの為に動き、常にそこに向かっていた。その苦労する"楽しさ"は十年以上経った今も何ら変わりはしない。

"のだめカンタービレ"を愛する沢山の人々は、この物語にどんな感想を抱くのだろう。僕はこのストーリーの、登場する人物の、そこにある情景の全てが眩しくて仕方なかった。キャンパスの雰囲気、緊張感、様々な人との関わりの中で芽生えていく感情.....描写の一つ一つが、特に音大を経験した僕にはよりリアルに伝わってくる。そして何より、主人公が心の赴くままにピアノを弾く姿―ピアノを愛し、何より音楽家として最も大切な"音楽を楽しむ姿勢"を持つ事.....この部屋のどこかで腐敗しているであろういつかの弁当の悪臭を気にしながら僕は一冊、二冊と読む度毎、主人公に自分を重ね合わせていった。そして、恐らくそんな人が沢山いるに違いないと僕は確信するのだが、どうだろう。まあ、弁当はさておき.....。

"Allegro Cantabile"という曲にはこれまでの自分、現在、未だ見ぬ未来.....そして、いつもそこに在り続けるピアノの存在の全てを書いた。この物語への曲を書く事が決まった時、咄嗟に僕はそれを書きたいと、書くべきだと勝手に解釈した。歌うように演奏する、歌うように日々を生きる。伸びやかな心は喜びも悲しみも全て歌に変える。それは歌い継がれ、人々の心に残る。僕はずっとそれを信じている。"Allegro Cantabile"は僕の人生そのものであると同時に”のだめカンタービレ"に登場する人々へ、そしてこの物語を愛して止まない人々への小さなメッセージを込めた歌でもある。受け取って頂けたらこんなに嬉しい事はない。

最後に―この素晴らしい機会を下さった皆さんへ、そして、この物語との出会いを下さった二ノ宮知子先生へ心からの感謝を。

末光篤/SUEMITSU & THE SUEMITH